ファーストフードが完全に機械化されることはない

 ファーストフードのバイトとかって価値なくなるよなってことをはてなの増田さんが書いていたので、ファーストフードで店長をやっていた俺がちょっと書いてみる。この増田さんが言っていることは、ある意味では正しい。アルバイトを雇うよりも、完全に機械化した方がランニングコストは、うんと下がる。人件費が売上げに占める割合っていうのは、店にもよるけど30〜40%ってところだろうか。原価+人件費で、売上げの半分以上は消えると考えていい。

 月100万円の売上げ(少ないよ、非常に)があったら、粗利で40万円程度、固定費(家賃とかの何もしなくても発生する費用)を差っ引いたら、ほとんど残らない。月100万円程度の売上げだったら、確実に赤字になる。店舗のスタッフが全部機械になれば、人件費は大幅に圧縮できる。それと求人広告も出さないし、人手不足の心配もないし、店長の気苦労もなくなる。すべては万々歳のように思える。

 しかし、いくら低コストだとしても、売上げが上がらなければ、店舗としては無価値なんだよ。店舗スタッフをすべて機械に置き換えたとして、売上げが前年比100%以上になるかどうか、という問題を無視している。世の中にある飲食店は、売上げを出して利益を得ることを目的としていて、客に安価な商品を提供することが目的ではない。安価な商品を提供するのは、利益を得るための手段でしかない。利益を出すためには、コスト削減以前に売上げを上げなければならない。つまり、コスト削減のために売上げを下げることは賢い選択ではない。それであれば、コストを上げた分を売上げで上昇分を回収した方がまだ賢いと言える。

 店舗を完全に機械化したとして、売上げが上がるだろうか。自動販売機のような機械のボタンを押すと、機械が調理した商品を出す店が、多くの人にとって魅力的だろうか。近所のマクドナルドからある日突然、すべての店員が消え去り、機械に置き換わる。奥では機械が肉を焼き、ポテトを揚げている。目の前では、できあがった商品を機械が袋に詰めている。すべての仕事は、迅速かつ正確に行われている。客は、その光景を無感情にただ見ている。そして、気付く。「自分は、金を払い、商品を受け取る機械なんだ」と。

 人間は欠陥品で、合理的に物事を考えることができない。その行動の多くは感情に流されるようにプログラムされている。多くの人は、極度に機械化された店を嫌うだろう。その店が合理的で、徹底的なコスト削減を行っているかどうかは、店を評価する基準ではない。自分が心地よく帰れるかどうかが、評価する基準となる。

 くら寿司は機械化されているが、オペレーションレベルの話だ。コストの大きい職人を使わずに安価なアルバイトを使い、ルーチンワークを機械化することに注力している。接客レベルでは、やはり人になる。

 生産性の問題は、店の売上げが上がれば生産性は勝手に上がる。月400万円と月1000万円の店では、生産性が全然違う。例えば、1時間に5万円売り上げるために、5人のスタッフが必要だとする。では、1時間に10万円売り上げるためには、10人のスタッフが必要かというと、そうでもない。おそらく7人いれば大丈夫だ。本当に1時間だけなら、5人で回る。スタッフの配置は決まっていて、店のキャパシティを極端に超えなければ、ある一定のスタッフ数だけで店は回る。だから、売上げが高ければ高いほど、スタッフ個々の能力に関係なく生産性が高い。

 それと、ファーストフードのアルバイトは機械化されていない。接客レベルに関して言えば、マニュアル化や機械化は昔の話で、今は脱マニュアル化が主流だ。企業によって異なるが、マニュアルはあくまでも基本というスタンスが多い。マニュアルを基本として、スタッフの自己判断でサービス行う店舗は、売上げも高いし、覆面調査員の評価も高い。

 店舗というのは良くも悪くも人が作っている。一見、マニュアル化されているように見えるが、実はスタッフそれぞれがマニュアルにないノウハウを持っていて、それを共有し、蓄積しているのが普通だ。何店舗か見てきたが、同じチェーン店でも、それぞれの店で雰囲気や仕事の進め方は違う。土地柄であったり、客層であったり、店の構成であったり、色々な要素が組み合わさって、最適化されている。それをやっているのは、店長ではなく、アルバイトだったりする。店長はアルバイトよりも早くその店からいなくなってしまうのが普通だからね。

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